Vol.16「From 厚木・ダンケ珈琲店」

まるで自分が、平成初期のドラマに出て来る主人公みたいで恥ずかしすぎるから、友達にも言ったことがないけれど、私にはとても好きなひとがいる。

本厚木駅のスクランブル交差点を抜けて、昔無印良品があった(らしい)道を進んでいくと、見えて来る珈琲店。(お母さん曰く、ここの珈琲店は「昔から変わらない」のだそうだ。)
地下に続く階段を下りて、ドアを押して入っていくと、そこにいるのは、コーヒーカップで飾られた壁と、そして美味しいコーヒーを淹れてくれる、店員さんたち。そして、いつも彼が待っている。

すこし奥まった席に座り、持ってきた文庫本を広げてコーヒーを頼むと、その彼が隣の机を軽く拭いている姿が見えた。彼は、待っているのだ。
これから来る彼女のことを。

断っておくけれど、私は別にこの彼のことが好きなわけではない。いつもここの席から、待ち合わせをする相手――彼女が好きなのだ。いつも彼女より前に来る彼は、彼女が座る席のセッティングをしている。きっと、そのことを彼女は知らないと思う。こうして、20分前も前に来て、そわそわしている彼なんて。

ほどなくして、私と同じようにして入ってきた彼女は、歳の頃40歳前後。少しきつめの顔だちに、短くカットされたショートヘアが良く似合っている。対して、彼も歳の頃、40歳くらいだろうか。白髪交じりの髪の毛と、少し丸まった背中が、彼をすこし小さく見せている。

二人、顔をくっつけ合って、旅行雑誌を一緒に見ていることもあれば、パソコンを見ながら何やら話し込んでいるときもある。そうかと思えば、なぜかじゃんけんをして遊んでいることもある。私からすると、大人なのにまるで子どもみたい。でも、すごく楽しそうに見える。

いつからなんだろう。あのひとのことから目が離せなくなったのは。そしてたぶん、人として、というよりも恋愛感情に近い意味で好きになったのは。もちろんそれをお母さんにも、ましてや友達にも言った事はないし、これからも言うつもりはない。
ここ数年で急に「LGBT」なんていう言葉が出てきて、同性愛にいたく関心が寄せられるようになったけれど、冗談じゃないと思う。人を血液型みたいに四種類で分類しないでほしいと思う。
私は、同年代の大学生の女の子を好きになったこともないし、男の子とも2人、付き合ったことがある。だから、正直なところ私がいわゆる「同性愛者」なのかはわからない。
もしかしたら、こうやって私がここに通いつめるのは、「それ」を確かめるために通っているのかもしれない。

ふと、珈琲を飲んでいる彼女と目が合った。私は、その目線から目を離すことができない。
これは、恋なのだろうか。恋に、似たニセモノ、なのだろうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です