Vol.14「From アミューあつぎ」

エスプレッソがおいしいという人の気が知れない。ガラス越しに行き交う人を見ながら、カップに口をつける。

……にっげー。

「なんか子供っぽいとこあるよね」
真弓の言葉を思い出す。
その時、オレはちょうど目の前のカフェオレに砂糖をたっぷり入れているところだった。

あれから、真弓はことあるごとに、そのフレーズを使う。その度に、「どういう意味だよ」とか言ってやろうと思うのだけど、結局「そうかな」と濁してしまう自分がいる。

真弓より3つ年下で、いまだ実家暮らし、酒もタバコも苦手、コーヒーはもちろん砂糖&ミルクたっぷり派。そんなオレはやっぱり世の中的に「子供っぽい」のかもしれない。

「♪そうだとしても〜あなたはあなた」

タイミングよく店の外から聴こえてきた歌声に、思わずカップを落としそうになる。多分、アミューの前でやってるライブイベントだ。

そう、別に気にすることではない。けど、今こうしてエスプレッソを飲んでいる時点で、オレは相当気にしてる。

半年前の合コンで、まさか付き合うことになるとは、自分を含め誰一人想像していなかっただろう。175㎝の真弓と165㎝のオレ。周りからは「姉弟かよ」と散々茶化された。

三人姉妹の長女でしっかり者で、今まで年上としか付き合ったことがない、18歳で親元を離れて看護師をしている、整った顔立ちと体型が年齢よりずっと大人びて見える真弓。

かたや、年上彼女は初めてで、今もなお親にパラサイトしている、三人兄弟の末っ子で性格も末っ子気質、どんだけ目を細めて見てもずんぐりむっくり体型のオレ。

オレは正直、一目惚れに近くて、内面を知ってさらに惹かれたけど、真弓はどうしてオレなんかの彼女になってくれたのか、いまだによく分からない。
付き合えたことが嬉しくて、嫌われたくなくて、付き合って半年経った今も、言いたいことや聞きたいことを遠慮してしまう。それは10㎝の身長差のように、オレと真弓の間にある、心の距離のようなものだ。

ゴクリ。また黒い液体を流し込む。苦すぎる。やっぱりオレには、オトナの男になって10㎝の壁を乗り越える力量はないのか?!ヤケになってカップをすする。

「♪自分をもっと信じてあげて〜」

またもや絶妙なタイミングで歌声が聴こえ、今度は盛大にエスプレッソを吹き出した。どうなってんだ、一体。

タオルで口元を拭いていると、店の奥の方に座っていた子供と目が合って、何だか急に笑えてきた。

意外と、簡単なことなんじゃないか?

背伸びして、無理するよりも、最初からこうして同じ高さのテーブルに座れば、目を合わせて話ができる。

勝手な劣等感や嫌われたくない一心
で、オレは自分から10㎝、真弓と離れて
いたんだ。
もう一度カップをつかむ。今度は苦さを想像しながら飲んだおかげか、あんまり苦くなかった。

「♪Take it easy〜」

ガラス扉に真弓の姿が見えた。俺を見つけて笑っている。オトナの男計画は終了だが、エスプレッソは続けてみようかと思う。

オレはあえて子供っぽく両手を振った。

text by 吉田ゆみ

 

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