Vol.12「From 厚木市・長谷」

社長になる。野球選手になる。留学をする。学生のうちに、音楽でメジャーデビューして売れっ子になる。

部活の帰り道、玉川沿いを歩きながらサワダとそんなことを言い合う。今日、担任が「今から本気で願えば何でも叶う」なんて言ったからだ。正直、俺たちはそれを聞いて興奮したね。何でも叶う?本当に?だったら、夢はでっかく!って。これでもかってくらい大成功する人生について語りあう。
正直、ワクワクしたね。そりゃそうだ。中学生にとっては、「何でも叶う未来」なんて宝くじみたいなもの。当たったらどうする?ってひたすら盛り上がる。

それもつい、さっきまでの話。
今、俺の目の前には田んぼが広がっている。等間隔に植えられた稲が作り出す、単調なリズム。ここに来た途端、すうっと温度が下がるのを感じた。

社長になる?野球選手になる?現実を見ろよ。
ほら、目の前に広がっているのは何だ?
耳をすませば、さらさらと微かに水の音。田んぼから田んぼへ、等間隔の稲の間をゆるやかに通り抜ける。稲は立ち止まったまま、育ち、実り、
刈り取られる。満たされた水は涼しげで、きらきらとして綺麗で、溺れそうだ。
ここからどこに行けるというのだろう。能天気なサワダは「田んぼって涼しくていいな~俺ここ好きだわ~」とか言ってやがる。あほだ。ついさっきの俺と同じくらい。

「俺は嫌いだ。虫が多いし、田舎すぎる」
広がっていくようで、明確な終わりがあるのが嫌だ。規則正しい稲の並びが嫌だ。涼しくて心地よくて、安堵するから嫌だ。きらきらしていて、見た目が美しいのも嫌だ。悲しくなるから大嫌いだ。
「まぁ、確かに、虫は多いよな」
サワダが落ちていた石を小さく蹴とばしながら歩く。この道を通り抜けられても、そこから先に何がある。見えるのはスーパーヤマダだ。俺た
ちが生まれるずっと前からあるスーパー。だけど俺は、ここに入ったことはない。

「俺は好きだけどなぁ。この風景。海みたいじゃね?広くて、きらきらしてて。田んぼのそばを通ると涼しいし、俺は今の時季が一番好きだけど」
目を凝らしてみる。海、海……確かにそう見えなくも……ない?
「これって、今だけだろ?稲が育ってくると、こんなにきらきらしてねーじゃん」
「今だけ、か」
「そ。今だけ」

もがくのも溺れるのも、きっと今だけ。今だけのこと。
少しだけ深く息をしたら、青い草の匂いがした。

text by kuromi

 

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