Vol.13「from本厚木駅前」

「美和ーーっ!止まりなさい!」
 駅前広場で走り出す私を、いつも母が大声で追いかけてきた。
 行き交うたくさんのバス、大きな横断歩道、一番街商店街……子供の頃を過ごした本厚木は、私にとって思い出の場所だ。だから、直子の電話は少なからずショックだった。

「明日、智恵も来れるって!美和がいた頃から比べたら、ホンアツもかなり変わったよー」
 優柔不断な智恵に何時間も付き合ったファッションビルがなくなったとか、 音楽好きの直子と毎日のように覗いたCDショップが閉店したとか……。
 しかも、〝決められない〟女だったはずの智恵が会社を立ち上げて社長に、カラオケではいつも〝聞くだけ〟担当だった直子まで「最近、路上ライブで歌ってる」なんて言い出すから、頭が軽くパニック状態。昨晩ばかりは、スマホやPCが苦手でSNSと無縁の生活をしている自分を呪った。

 私は……ここまで何となく生きてしまった気がする。大学、就職、そして結婚……二人のような「華々しい」変化もない。何だか自分だけ取り残されているような感じがして、せっかく久しぶりに会えることになったというのに、少し気乗りしなかった。

 電車を降りると、スマホが震えていることに気づき、あわあわと出る。
「着いた?一番街のイタリアンにいるからね!」
 そういう直子の後ろで、「こんなにメニューあったら決められないよ〜」と智恵の声が聞こえ、「じゃあ美和に決めてもらいな!」と直子がぴしゃりという。電話口から伝わるあの頃のような雰囲気に、つい拍子抜けして笑ってしまった。
「ごめん、すぐ行くね!」
 バタバタと改札を出て北口を出た瞬間、飛び込んだ景色に胸がきゅっとなる。周囲は少しずつ変わっているけれど、行き交うバス、大きな横断歩道、一番街商店街……全体のシルエットの中に、あの頃の景色が確かに見つけられて、一気に懐かしさがあふれた。
 私は、何を不安になっていたのだろう。時が経てば、街も、人も、変わるのは当たり前のこと。変化はあったとしても、こうして本厚木は本厚木だし、直子は直子、智恵は智恵であることは変わらない。昔の面影を、私がきちんと覚えていれば、それでいい。

 来てよかった……。
 そう思いながら駅前広場に出ると、急につないでいた手がほどかれ、目の前を小さな影が横切った。
「美咲ーーっ!止まりなさい!」
 私の声に三歳の娘が振り返る。だが、私を見るとキャッキャと笑いまた走り出す。
「……っもう!」
 そういいながら、気がつくと私も一緒に走っていた。そうだ、何となく生きてきた私にも大きな変化があったんだった。

 何となくでも、意識していても、どんどん時は流れ、色んなものが変わっていく。
「止まれ」といっても止まらない。
 街も、人も、その時代に合わせて、夢中で進んでいく。たまに懐かしく振り返る、思い出という面影をちょっとずつ残しながら。
 そして……きっと私もこれからを夢中で走っていくんだろう。

 娘と手をつなぎながら大きな横断歩道を渡ると、一番街商店街の入り口が見える。
 早く二人に会いたい。スマホの使い方、教えてもらわなきゃ。

 今日、本厚木は、もう一度、私の思い出の場所になるんだ。

text by 吉田ゆみ

 

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