at Bistro Bon Amis

at Bistro Bon Amis

「待ち合わせ、5分遅れそう。ごめん。先にお店入ってて」
彼女からのメールだ。
5分じゃなくて、15分だろ、と軽くツッコミを入れたいのをこらえて
「わかった、待ってる」とだけ送った。
…やれやれ。先に飲み始めることにしよう。

待ち合わせは、7時、ビストロ料理「ボナミ」で。

前に一度、ここのワイン会に連れて来てもらってから、
すっかり気に入ってしまった。

以来、なじみの店になっている。

フランス料理?ときいて、身構えた部分もあったのだけれど、
シェフの気さくさと、落ち着いたお店の雰囲気が、
ほっ、とさせるのかもしれない。

金色のドアノブを開けると、「いらっしゃいませ」
と気持ちのいい声が聴こえた。
いつものカウンター席に腰かけてしばらくすると、
「先になにか飲みますか?」とシェフが声をかけてくれた。

「それじゃあ、赤ワインを。グラスで」

――――――

「遅れてごめんね」と彼女が店に入ってきたのはきっかり7時15分。

「こんばんは、えみちゃん。なに飲む?」とシェフに聞かれ、
「わたしも赤ワインがいいな」などと答えている。

お疲れさま、かんぱい、とグラスを合わせたところで、
ようやくこっちを向いてくれた。

ほどなくして出てきたのは、色鮮やかな前菜たちだ。

「左から、新玉ねぎのプリン、ホタルイカのディルとにんにくオイル風味のマリナード、
豆腐と分葱のムースロワイヤル、テリーヌドカンパーニュ、
サーモントラウト珈琲の香る燻製、桜えびと人参のラッペ、です」

一度聴いただけでは覚えられないメニュー名を聞き終わる前に、
皿に手が伸びてしまっていた。

「…ちょっと。まだいただきます、してないよ?」
「待ちくたびれたんだよ」
「…このさ、新玉ねぎのプリン、スイーツみたい。
ラッペもさっぱりとした味でおいしー」
「人参キライなのに、これだけは食べるよな」
「…きらいじゃないよーだ」
シェフが向こうの方で笑っているのが見えた。

やがて、
「どうぞ」と言って目の前に置かれたのは
鶏肉だろうか、表面がパリっとこんがりしている…
「コンフィです」

口に含んだ瞬間、ほろっと崩れ、中からうま味があふれてくる。

「…おいしいでしょう?」
「中からじゅうっとしみ出してくるおいしさ、ですね」
「コンフィは低温の油でゆっくりと煮込んだ料理でね。じっくり煮込むことで、
ゆっくりゆっくり、おいしさを閉じ込めるんです」

おいしさを閉じ込める、か。
ほどよい油の甘みが赤ワインと重なって、胃に落ちていく。
うん、うまい。

ふと、隣を見ると彼女が口いっぱいにして、コンフィを頬張っている。
目が合うと、恥ずかしそうににこっと笑ってくれた。

…あぁ、そうだ。
今夜、コイツにすごく会いたかったのだ。オレも。

2人の夜は、まだ、始まったばかりだ。

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