Vol.11「厚木ふたり」

アイツとはじめて会ったのは、どこかのバーだった。
ゴトーだか、サトーだったか。たしかそんな名前だったと思う。その時は当たり障りのない話で終始した。何だかちょっと面白いヤツだな、くらいの印象しかなく、どちらかというと苦手なタイプのように感じたことを憶えている。
2度目は、別のバーだった。
オレは全然気付かなかったが、アイツの方はオレが店に入るとすぐに気付いた。
離れた席でしばらくためらってはいたが、しばらくするとツカツカと近付いて来て、隣の席にスッと座ってきた。
「この前、お会いしましたよね。憶えてます?」
「あー…えっと…」
「家がこの辺でふらふら来るんだ、って。なめろうが好きなんだって、熱弁してたじゃないですか?」
「オレ、そんなことまで言ってました汗?」
言ってました、と答えると、「なにか飲みます?」と聞いてきた。
「じゃあ…もういちど、ビールを」

2人で軽くグラスを近づけ乾杯が終わると、失礼と思いながらも、もう一度名前を聞いた。
彼は「サイトウ」と名乗った。やばい。オレ何にも覚えてないぞ。
そんなことを気にするふうでもなく、彼は「何度でも聞いてくださいよ、名前」と言って笑った。

三度目に会ったのはたまたま呼ばれた、飲み会での席だ。厚木、海老名周辺の顔見知りで
新年会でもしよう、そんな飲み会にあまり気乗りはしなかったがまあ一次会だけでも、と思った
席の斜め向かいに彼は座っていた。

偶然――偶然も3回続けば運命だ、そんなことを言ったのは誰だったか。
なるほどたしかに、そうなのかもしれない。年の頃、40代。とはいってもオレは40代後半。
彼は40代前半。今読んでいる本のこと。観た映画の話。最近行っておいしかったお店の話。話は自然と盛り上がり、不思議と尽きなかった。

「最近、その彼のことばっかり話すよね?よっぽど、話してて楽しいんだね。
馬が合うっていうのかな…え、なんでって?だってあなた本当に楽しい時しか、「楽しい」って言わないもの」
そんなことを彼女にまで言われてしまった。

四度目はオレから誘った。早い時間から待ち合わせして話をして、
記憶がなくなるまで飲もうと思っていた。実は、話してみたいことがあった。

「自分の店を持ちたい―」彼女にも、他の友人にも誰にも話したことがないことだ。
どうして話してみたくなったかはわからない。わからないけど、純粋に意見を聞いてみたかった。
彼なら「やめたほうがいい」と簡単に言わないと思ったからだ。

「サイトウくん、ホントいろんなお店知ってるよね」
「会社員の頃から飲みにいくことだけが楽しみーみたいなヤツだったもんで(笑)」
「オレも似たようなもんだ(笑)仕事が終わって、家に帰りつく前にふっと一杯、
立ち寄ってお酒を飲む。他愛ない会話をする。そうすると、自然と明日も仕事するかって思える気がしてたな」
「そんなお店を持ちたいなってずっと会社員の頃から思ってるんスけどね」
「…サイトウくん、それ…マジで言ってる?」

その日の夜の酒は本当に旨かった。べろんべろんに酔いながら、肩を組んで鼻歌を歌って。
一緒に出すお店の名前やらを叫んだような気もする。
来週、5回目に会う約束をした。二人でやりたい店の話をすることになっている。二人でやる店なら、きっと面白くなるはずだ。

「それじゃあまた、来週」
「はい、来週楽しみにしてます」
オレは帰路へと着いた。酔って熱かったのはなにも身体だけではない。心もだ。

運命っていうのは、意外と近くに転がっているものなのかもしれない…。
そう、思いながら目を閉じた。来週はなにから話そう。そんなことを、考えながら。

text by Amari

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