「厚木ふたり」Vol.5

うすぐらい部屋のベッドの上で、彼がぐっすり眠りこんでいる。
おおきな身体にわたしよりすこしだけ大きな手。
少しだけ高い体温。
耳たぶは福耳。
猫が自分のベストポジションを決めるように、彼のうえでごそごそしていると、うっすらと目を空けてにっこりと笑ってくれた。
わたしの一番、好きな笑顔で。
鎖骨とほっぺたの間に顔をうずめたままぎゅうっと抱きしめてもらっていると、まるでお風呂に入っているようで、ぽかぽかと気持ちがいい。
この人の肌はなんだかしっくりなじむ。

しんしんと冷える、厚木の夜。
缶ビールをぶら下げて散歩でもしようかと言い出したのが3時間前。
相模川沿いの石段に腰掛けて夕暮れを眺めていたのが1時間前。
ゆっくりと陽が沈んでいくのを見届けて、あたりが夜の気配になった頃。
ふと、思い切ったようにわたしの手を握ってくれたとき、ちょっとびっくりしたけれど、彼の照れた横顔がすごく可愛く見えて。
とっても恥ずかしかったけれど。
指先にまで鼓動がつたわってしまいそうだったけれど。
「彼と抱き合いたい」と強く思ったのだ。

知り合って、半年。
つきあうようになって、ちょうど3ヶ月。
寒さも、わたしたちを後押ししてくれたのかもしれない。
さっきまではすこし遠い他人のような気がしてたのに、今ではいちばん近い他人の気がする、なんてこと言ったら彼はどんな顔、するんだろう。

いつの間に起きたのか、
「…なんだかあなた、身体がつめたいよ?」とわたしに言う。
「…男のひとはどうして体温が高いんだろう」
「女のひとは、脂肪が多いからその分身体が冷えちゃうのかな」
と微妙にかみ合わない会話も、くっついていればそんなに気にならないから不思議だ。

本当は、まだ聴きたいことがたくさんあるのだ。
家族のこと、子ども時代のこと、学生時代のこと、つきあってきた彼女たちのこと…。
そのすべてをはしょって、
「あなたと付き合えてよかった」と彼に告げると、
「…まだ、俺たちつきあったばっかりでしょ?」と困ったように返事をしてくれた。
うん、とこたえて微笑むと、あなたの胸に赤いほっぺたをあずけて、わたしは少しずつ目を閉じる。
目を開けたあとも、あなたの顔が近くにあるといいなと思いながら。

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