「厚木ふたり」Vol.3

勤務を終えて、本厚木駅前に帰ってくるとほっと一息ついた気持ちになった。最近新しくなった駅ビルの中にあるコーヒーショップに入り、あったかいブレンドコーヒーを頼む。
お砂糖とミルクは半分ずつ。
ちょっぴり甘い、しあわせなひとときだ。

家と、仕事場との往復をして、40数年あまり。仕事からの帰り道、カフェに立ち寄る時間は自分に戻れる、リセットタイムなのだと思う。

娘を育てながら勤務をつづけ人生のほとんどを一緒に過ごしてきた母を看取り、娘の住んでいる街に越して来たのは4か月前。それから、娘の暮らしぶりにウンザリしだしたのが2か月前。そして、それが耐えられなくなり家をしばらく空けたのが1か月前。
ほんの5年、一緒に住まない間に娘は家事をするのがニガテな子になってしまったようだ。なんともはや。

「もうこういうオモチャみたいな雑貨は捨てなさいよ、30にもなってみっともない」
「もういいから、置いといてよ。ていうか仕事してるの。話しかけないで」
そう言いながらぶつぶつパソコンとにらめっこしている。
「そういう言い方はないでしょう?」

家に帰ってくるなり、この調子。
母と娘なのにどうしてこうもわかりあえないのだろう。

最近ではパソコン一つでどこでも仕事をする「ノマド」という働き方があるらしい。

電話とパソコンがあれば仕事が成り立つ、そう言われれば何となくイメージは湧くのだが、実感がわかない。
タイムカードを押して決められた時間に仕事をする、そのスタイルは今でも変わらないが、しかしながら娘のような働き方もまた、この先増えていくのだろう。

―ふと、周りを見るとパソコンと向かい合って仕事をしている―ノマドワーカーらしき人たちを何人も目にする。

「わたしの知り合いとかにもたくさんいるよ?事務所を持たないで仕事するひとたち」
と娘が話していたように、なるほど確かに、インターネットさえあればその方が効率的に仕事を進められる職業もあるのかもしれない。

…いったいどんな仕事をしているのか、今日帰ったらわたしの方から聞いてみようか。

そして今度は一緒にコーヒーを飲みに来よう。娘のノマドワークを横目に見ながら飲むコーヒーも、きっとしあわせな味に違いない。

そう思い立ち、わたしは席を立った。

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